消滅の危機から復活へ!巫女舞の継承で地域の愛着を育む。第4回Attractive JAPAN Award 地域アイデンティティ賞受賞・会津磐梯巫⼥舞保存会様
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第4回「Attractive JAPAN Award」(※1)の受賞事業者にお話をうかがい、地域での取り組みや事業・サービスにどのような想いを持って活動されていらっしゃるかを紹介するインタビューシリーズ。今回はその第2弾です。
「地域アイデンティティ賞」を受賞した、会津磐梯巫⼥舞保存会の事務局長、鈴木雄一郎さんにお話をうかがいました。
会津磐梯巫⼥舞保存会は福島県磐梯町の巫女舞を継承し、伝統を守る団体として活動しています。巫女舞には300年以上の歴史があり、慧日寺在所の本寺地区で長い間伝えられてきました。しかし、少子化の影響で継承が難しくなってきたため、町内外からの有志を集め、保存会を結成して継承活動を進めています。さらに地域文化の振興や人々の交流を深める目的で、公開練習やイベント開催などの活動を通じて、地域の文化継承と発展を目指しています。
(※1)第4回「Attractive JAPAN Award」についてはこちら
【プロフィール】 鈴木雄一郎さん
福島県磐梯町出身。観光系の専門学校を卒業後、ホテル業界に従事。東日本大震災をきっかけに故郷の福島に戻る。地元の伝統芸能「巫女舞」の存続が危ぶまれている状況に危機感を覚え、2018年に会津磐梯巫⼥舞保存会を結成。現在は巫女舞の開催や運営を中心に活動している。
巫女舞の復活と変遷
巫女舞は福島県の重要無形民俗文化財に指定されている神社の神事で行われる舞で、本寺地区が守ってきた伝統文化です。毎年、春の彼岸に祭りを開催し、地区の中で巫女を選出していました。幼稚園から中学生の女の子たちが舞い手を担い「榊の舞」「弓の舞」「太刀の舞」を踊ります。太鼓や笛などの演奏は大人が受け持ちます。
この舞は江戸時代から続いていましたが、明治33年の大火事により途絶えてしまい、復活したのは昭和48年のことでした。当時、7歳だった女の子が、高齢になっても舞を覚えていて、再現できたことがきっかけとなったのです。復活後は、地区の主導のもとで継続されています。
東日本大震災をきっかけに地元である福島にUターン
私は長年、ホテル業界で勤務していました。2011年に発生した東日本大震災当時、和歌山におり、その地でも津波の影響を目の当たりにしました。関西でこのような状況を経験したことから、東北地方の被害がもっと大きいのではないかと感じました。東北にボランティアとして赴く仲間たちを見て、私もじっとしていられなくなり、地元の福島での復興に貢献したいという強い思いが湧いたため、すぐにホテルの仕事を辞めて福島に戻る決断をしました。
伝統を継承するという課題 舞と囃子の担い手が減少
震災の翌年、2012年に巫女舞が行われ、その際、幼稚園年中の私の娘が巫女として参加しました。この経験から、舞い手の不足を痛感し、巫女舞の保存のために何かできないかと考え始めました。伝統では巫女の父親が囃子を担うことになっていますが、巫女不足に伴い、囃子を行う父親も減少。地域の指導のもとで巫女舞を継続しましたが、練習期間が長く、地域住民の協力を得るのが難しい状況でした。巫女は最低12人は必要ですが、舞い手が不足し、対象年齢を広げる必要がありました。結果として人数を8人に減らしたため、本寺地区にゆかりのある子供なら誰でも巫女になれるようにルールを変更しましたが、それでも状況は改善しませんでした。
2018年に会津磐梯巫⼥舞保存会を立ち上げ、子供会の臨時総会で協力を要請。巫女の父親が行う囃子を、男の子の父親にも募集することにしました。また、地区外からも巫女や囃子を募集し、運営体制も変更しました。2019年には新体制で巫女舞を実施できましたが、そのタイミングでコロナが発生。学校との連携が困難になり、募集の連絡もできなくなってしまいました。祭りも開催できなくなったので、巫女舞を知らない子供たちが増えていくことに危機感を覚えて、記録用の写真や映像を集めようと考えていました。そんな時に「福島県内の文化財等を活用した誘客促進支援事業」を見つけ、伝統の舞としてだけでなく、観光体験としても取り組むことになりました。これは、巫女舞を伝えることだけを考えていた私にとって新しい試みでした。
地元住民へのPR活動 子供たちのモチベーションも向上
私は商工観光課の担当者として観光の価値は理解していますが、実際問題として、巫女舞の運営にはフォローもコストもかかるため、収入を得るのは大変だと感じています。なので、まずは文化保存の方向で進むことに決め、記録映像や写真を残すことにしました。
定期的な練習を続けて子供たちが踊る機会を増やすために、サポートしていただける方を増やす必要がありました。ただ、コロナ禍につき「なぜこんな時期に、なぜ今必要なのか」という反応が返ってくると思ったので、まずは同じ危機感を感じているお母さん方など、身近な仲間にアプローチし、ポスター掲示などの地道な準備を進め、無理をしない範囲で理解を広げるよう努めました。
また、周辺市町村へのPRとして、事業者を巻き込んでツアーをつくろうと考えていましたが、コロナ禍で計画が変更。巫女舞自体の価値を高めることが重要だと考え、できることや継続性のあることを重視し、地区の人たちや巫女の親たち、みんながやりやすいことを優先しました。ツアーをつくって売り出すのではなく、巫女舞自体に“価値”をつくれば、その地域でやってみたいと思う体験になるのではないかと思ったのです。
実際にお客さんを招いてプランを催行しました。少人数で屋外催行のプランだったため、コロナ禍の需要とマッチ。それがきっかけとなり、チラシを作成したところ、より広く知ってもらうことができました。その波及効果で、正月には余興を依頼され、子供たちも踊りたいという意欲があったので、初めて外に遠征。認知があがったことで、旅行商品としても機能をし始めました。コロナ禍での調整や各所への合意形成は大変でしたが「今、やらないでどうするの?」と子供たちが声をあげてくれたことで、僕らの心も動かされました。舞にはお祓いの意味もあることを子供たちがよくわかっており、彼らのモチベーション向上にもつながり、その本気度がこの活動の活性化につながりました。
モチベーションを高めてくれる地ブラの存在 地域文化の継続への希望
私たちの団体が参加した2022年に福島県庁が実施した「福島県内の文化財等を活用した誘客促進支援事業」は、新しい観光素材をつくるのではなく、地域がすでに持っている文化財などの観光素材を活用し、観光商品化を推進することを目的としています。
この事業は、地ブラさんにサポートしてもらいました。代表の吉田さんは人の気持ちを理解し、口下手な私が言いたいことをしっかりと汲み取ってくれる方で、安心感を覚えました。スタッフの皆さんも一生懸命に取り組んでくれて、私たちに地域のことをしっかりと考えさせ、問題を整理する手助けをしてくれます。担当スタッフは困難な状況でも常に笑顔を絶やさず、私たちのモチベーションを高めてくれる存在で、とても感謝しています。この事業で地ブラさんのサポートがなければ、伝統は失われていたかもしれません。みなさんの後押しのおかげで、前に進む勇気を持つことができました。
新しい視点での文化振興 地域コミュニティの強化を目指して
観光素材として地域文化を捉え、新しい視点での取り組みを進めました。保存会の団体として地域文化を広めることに焦点を当てています。子供たちが地域行事に積極的に参加し、大人たちもそれに応える形で協力しています。この取り組みは、地域ブランディングの一環として新しいプロジェクトを立ち上げ、地域の伝統や文化を保存することに貢献しています。そして、地域の子供たちと大人たちを一つに結びつける役割を果たしていると思います。
巫女舞は歴史的な背景がある地域特有のものなので、今回「地域アイデンティティ賞」を受賞することができて、とても嬉しいです。保存会のメンバーも大変喜んでおり、子供たちも「やってきて良かった」「頑張って良かった」と言っていました。私たちの取り組みが認められたことは大きな励みとなっています。
愛着人口の増加と地域アイデンティティの探求
今回の事業を通じて、地域文化の保存と伝統を発展させる新しい方向性を探求しています。私の目標は、地域に対する愛着を持つ人口を増やし、それらを観光や地域づくりにつなげることです。今年は新たなイベントや祭りを開催し、地域の好循環を生み出したいと思っています。
伝統を保存することによって利活用が可能になり、利活用することでさらに保存が促進されるというサイクルを意識して取り組んでいます。今後はより地域アイデンティティを強化し、誘客につなげる方法を模索していきたいと思っています。また、地域文化を深く研究し続けることで、世界の多様性ともつながり、海外にも響くキーワードになると思うので、インバウンド誘客にも注力したいと考えています。
文化財の保存と継承を続けることが、観光だけでなく、地域の発展やまちづくりにも貢献すると思っています。過疎化が進むまちであるため、愛着を持ってもらえる取り組みを進めることが重要です。他の地区にも継承が難しい伝統がありますが、一過性で終わらせず、持続可能な文化として維持していくことが必要です。愛着を持つ人々が関わり続け、文化を次世代に伝えていくことの重要性を強く感じています。
取材を終えて
福島の巫女舞の復活と、地域コミュニティの強化に向けた取り組みについてうかがうことができ、その意義と努力の大きさに深く感銘を受けました。長年途絶えていた伝統を、地域の団結と献身によって再び息吹を与えたことは、単なる文化保存にとどまりません。震災の影響を受けた地域が、伝統と新しい取り組みを融合させながら、自らのアイデンティティを再構築し、子供たちを含めた住民一人ひとりがその文化に愛着を抱く様子は、まさに復興の象徴といえます。
この取材を通じて、文化の継承が地域の連携と絆を強化し、新たな観光資源としても機能する可能性を確信しました。地域固有の伝統を守り、それを通じて地域住民の誇りを高めるこの取り組みは、他の地域にとっても示唆に富むものです。福島の巫女舞の今後の発展と、それらがもたらす地域全体の活性化に、大いなる期待を寄せています。
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