オンラインならではのバスツアー。そして、オンラインからリアルへ。第2回Attractive JAPAN大賞 地域イノベーション賞受賞・琴平バス株式会社
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着地型体験観光企画を通じて持続可能な地域の発展に貢献した観光関連事業者・取組団体を表彰する『Attractive JAPAN大賞』。審査は、地域振興やエコツーリズムの専門家3名の評価をはじめ、ブッキングデータの伸び率、クチコミ評価、地域らしさ、関係者の熱意、持続性、話題性、地域貢献度等の総合評価により決定し、受賞者が選出されました。この度、Attractive JAPAN大賞受賞事業者の方々にインタビューを実施し、地域での体験観光における取り組みを深掘りしていきます。
今回は、逆境に負けず、新たな体験提供に取り組み・体験提供を行う優れた地域・事業者に授与される地域イノベーション賞を受賞した琴平バス株式会社より、楠木さんにお話を伺いました。地域の魅力を伝えること以上に現地の方々や参加者とのつながりを大切にしている琴平バス。人気のオンラインバスツアーの開催は、リアルのツアーにつなげるための「きっかけ」でした。
きっかけは地元の人とのつながり
お客様とのつながり
琴平バスは、1956年に香川県琴平町にタクシー会社として創業し、コロナ前から地元でバスツアーを実施していました。当時は、1ヶ月に4、5回参加してくださる常連のお客様が多くいらっしゃったのですが、コロナを機にその方々とも全く会うことができなくなってしまいました。そんな時に、馴染みのお客様から会社に励ましのお電話をいただいたんです。応援してくださるお客様のためにも、なんとかしてお会いできる場を作りたい。そう思ったのがオンラインバスツアーを始めるきっかけのひとつでした。
地元のために
2つ目のきっかけは、コロナ前からできていた現地の事業者さんやガイドさんとのつながりでした。その方々から、コロナの影響で観光客が激減し、道の駅のお土産が売れ残ってしまったり、ガイドさんの活躍の場がなくなってしまったりと、お困りの声を伺いました。そこで、現地の方々のために少しでも力になりたい、活躍の場を提供したいという思いも、きっかけになりました。
オンラインバスツアーのこれまで
急ピッチの準備
オンラインバスツアーのアイデアが出たのが緊急事態宣言が初めて出された2020年4月末。そこから実現まで、驚異のスピードで準備が進みました。「どうせやるなら一番早くやらないと」という思いで、5月の連休中も準備を進め、5月15日には最初のツアーを実施。企画から実施まで2~3週間で準備しました。その甲斐もあり、「日本初のオンラインバスツアー」として多くのメディアに取り上げていただきました。計画段階では地元の方向けに進めていたのですが、結果としては、全国各地からご参加いただけました。これまでに70本以上のツアーを企画し、募集企画で250回以上、貸切では200回以上催行。また、団体で4,500名以上、募集企画では2,500名以上のお客様に参加いただいています。一回のツアーを15名程度に設定しており、ありがたいことに毎回ほぼ満席に近い人数で実施しています。
理解を得るまでの苦悩
急ピッチで実施できたものの、地元の方々の理解を得るのは少し時間がかかりました。そんな中で、最初にツアーを実施できたのは島根県石見神楽でした。この地域のように、すぐに賛同してくださる方もいれば、オンラインでの実施に腰が引けている方もいらっしゃいました。ですが、オンラインツアーがブームになるにつれて賛同してくださる方も増え、現在では、地域側からツアーを実施して欲しいと声をかけていただくことも増えています。
人気ツアー造成の秘訣
オンラインバスツアーは現在約50コースほどあり、島根県をはじめ日本の様々な地域のツアーを実施しています。国内ツアーのみならず、ニュージーランドとスペインで日本人向けの海外ツアーも実施しています。
リアルに感じてもらうための工夫
当初、社内向けのトライアルでは、ただ写真を見てガイドをする形式のツアーでした。しかし、それだけではリアル感に欠けるという声があり、現地のライブ中継や車窓動画を発信するなど、お客様により臨場感を味わっていただけるように改善を重ねました。
インバウンド向けのツアーも
昨年の10月からは、アメリカを中心としたインバウンド向けのオンラインツアーも実施しています。現地アメリカの旅行会社IACEトラベルさんとパートナーシップを結び、これまでに四国・鹿児島・京都の3コースを各2回ずつ実施しました。アメリカからのオンラインツアーは、一回の参加者の上限を50アカウントまでとしていますが、こちらも毎回ほぼ満席の40~50人ほどの方に参加いただいています。
ブラッシュアップの繰り返し
ツアーコンテンツを作成する上で、どこに行ってもらうかは、現地の皆さんが伝えたいものをベースに考えています。その上でトライアルを実施し、説明の内容やツアーの中身をブラッシュアップしています。そして、ツアーを実施するたびに反省会を繰り返し、改善を重ねています。
将来のリアルツアーへの接続
オンラインからリアルへ
僕たちは、オンラインバスツアーをコロナ禍だけの期間限定のものだとは思っていません。オンラインで気軽に参加してもらい、「将来のリアルにつなげる」ことが元々のテーマです。海外の方々には、東京・富士山・京都といったゴールデンルートに比べて、四国はあまり知られていないと思います。オンラインツアーで、よりディープな日本や、各地の隠れた魅力を知ってもらい、実際の来訪につなげられたらと思っています。
オンラインを通して、「会いたい人」を増やす
オンラインからリアルのツアーへつなげるために重要なのは、ガイドの存在だと考えています。例えば、旅行などでどこかに訪問する時、記憶に残っている場所ってどこだろう?と考えた時、そこには「人」がいるんです。もちろん、景色や食べ物の魅力もあるけれど、会いたいと思える人がいることが一番大事だと思っています。
だからこそ、オンラインバスツアーの中でもそういう価値を提供したいと考えています。例えば、オンラインツアーを通して仲良くなった現地のガイドさんを訪ねることにつながると、訪ねて来てくれた側も嬉しいし、訪ねた人も、より高い満足度で滞在ができる。あるいは、それを通じて「また行きたい場所」になるのではないかと思います。こういう形で、オンラインバスツアーを「関係人口のきっかけづくり」のような位置付けとして、新しい旅のスタイルにしていきたいです。
関係人口を増やすきっかけ作り
ガイドの重要性
「関係人口のきっかけづくり」を実現する上でもガイドの存在は重要です。ガイドは基本的に現地の方にお願いしていますが、その土地に関する「知識が豊富な方」と、「知識の量では多少劣るけれど楽しくコミュニケーションをとれる方」を比較すると、やはり後者の方が圧倒的に満足度が高い。そのような現地のガイドさんを増やして、一度のツアーだけでなく、また次も、その次も会いたいと思える関係づくりが大事だと思っています。
一つの例が加賀屋旅館の若女将。とても人気のある旅館ですので、通常の旅行だと、女将さんからじっくり話を聞くことはなかなか難しい。ですが、オンラインだとそれが実現できます。そういう部分がポイントになると思います。
新たなコミュニティ
また、オンラインツアーに参加してくださった方々用のFacebookグループも作っています。そのグループでは、「オンラインツアーで紹介した地域に実際に足を運んだよ」という報告や、「地域のECサイトで現地の物産を買ったよ」といった報告をしてくださる方もいらっしゃいます。こういったコミュニティを持つことができるのもオンラインツアーならではの強みになっているのかなと思います。
ファンを増やすこと
このようなコミュニティを維持していく上で重要なのは「ファンを作る」ことだと考えています。例えば、弊社プランナーの山本が実施するオンラインツアーに参加してくださった方に対して、彼女が別のエリアでやっているツアーを紹介したりして、人の顔が見えることも大切にしています。
最後に
僕たちはオンラインバスツアーをコロナ禍だけの期間限定だとは考えておらず、今後も可能性は色々なところにあると気づかされることがあります。コロナ禍で思うように動けずに苦労している観光関係者の方は多くいらっしゃると思います。バスツアーに関してはお役に立てることも多いと思いますので、共に、地域の復活に向けて様々な取り組みをしていきたいです。
まとめ
今回、国内外から人気を集めているオンラインバスツアーの秘訣に迫るべく、編集部が琴平バス株式会社の楠木さんにインタビューを行いました。地域の魅力を伝えること以上に現地の方々や参加者とのつながりを大切にしている姿勢が、人気の秘訣のひとつだと感じました。
琴平バス株式会社がオンラインバスツアーを始めたきっかけは、地元のお客さんや現地の観光事業者さんとのつながりでした。ツアー造成にあたり、より臨場感を演出するためにライブ中継や車窓動画を組み込むなどリアルツアーでの魅力を再現する様々な改善を行い、その結果、現在では国内外から多くの反響を得られています。それでも尚、決して現状に満足せず、ツアーを実施する度に改善を繰り返しながら、常にブラッシュアップされたサービスを提供し続けていました。また、オンラインツアーをリアルでの訪問につなげるべく、知識量よりコミュニケーション能力に長けた現地のガイドを起用することで、参加者と現地の間に「会いたい人」という接点を作る。そういった、地域の魅力を発信するだけではなく、「人」とのつながりを大切にしたオンラインツアーのあり方は、他の多くの地域でも参考になることでしょう。
琴平バス株式会社は、オンラインツアーをコロナ禍だけのものではなく、リアルのツアーにつなげるためのきっかけの一つと捉えていました。その上で、地域資源の魅力だけでなく、参加者とのコミュニケーションを通してファンを増やすことが、リアルでの観光につなげるための鍵なのだと感じました。今後のさらなる活躍を期待しています。
第2回『Attractive JAPAN大賞』についての紹介ページはこちら
第2回『Attractive JAPAN大賞』各賞を受賞された方のインタビュー記事はこちら↓
大賞受賞・八ヶ岳アドベンチャーツアーズ様
地域アイデンティティ賞受賞・株式会社つくる様
SDGs賞受賞・津和野町様