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2022/04/20 国別対策

JIFオンラインセミナー・レポート『世界のサステナブルトレンド~日本の観光地に求める基準~』

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    JIF(日本インバウンド連合会)によるセミナー『世界のサステナブルツーリズム最新トレンドと、動画マーケティング最前線』がオンラインで開催されました。

    セミナーの中で、ロンドン大学キングスカレッジ出身で長年英国発の訪日旅行に携わってきた地域ブランディング研究所 佐藤洋征が、「世界のサステナブルトレンド〜日本の観光地に求める基準〜」というテーマのもと、サステナブルツーリズムに対する日本とヨーロッパの意識の違い、そして世界のトレンドがアフターコロナに向けてどう変化していくのかについて話しました。

    サステナブルツーリズムのアプローチと日本における課題

    佐藤:早速ですが、サステナブルツーリズムの基本となる2つのアプローチについてご紹介します。

    まず1つ目が、制作側のアプローチ。持続可能な開発の原則を、戦略的経営や提供するサービスに組み込む事で、あらゆる観光事業者が採用できるアプローチです。持続可能な開発を取り込みながら、きちんと経営が成り立つ形を考えていくことが重要になります。

    2つ目は、旅行者側のアプローチ。旅行のような無形商品の場合は、旅行者の責任を十分に考える必要があります。旅行者の行動、及び、旅行会社での目的地選択などにおいて、持続可能性の基準を考える事が重要になってきます。

    サステナブルツーリズムについて考えた時に、まず、はじめに出てくるのが自然環境の話題だと思いますが、短期的利潤追求による、目的地の長期的環境の悪化は、他にも社会環境や経済環境にも影響します。そのため、広い視野を持って、それぞれの環境の問題について、どういう取り組みをしていくべきか、考える必要があります。

    まずは、社会環境の問題。代表的なものは、本来の収容能力を超えた観光客が地域に集まってくる、いわゆるマスツーリズム(日本では「オーバーツーリズム」)です。近年では、都市型観光地であるアムステルダムやベニス、バルセロナ、日本の京都や鎌倉などにおいても問題となっています。この問題に対しては、観光地の受け入れ容量(キャリングキャパシティ)に見合った形で、取り組む必要があります。

    次に、経済環境の問題。観光誘致をして、観光客を集めることは経済的に良い面もありますが、実際に蓋を開けてみたら、外部から来たチェーンが経済的利益の多くを持っていってしまい、地元にはほとんど利益が落ちないということも、随分前から言われてきました。そのため、最近では地域が主導する旅行商品の開発及び運営をする場所も増えています。

    最後は、自然環境の問題。発展途上国における自然破壊の問題は深刻で、これまでにも、地域資源に対して、非常にダメージがあったことから、国内でも国際的にも、水準を作って遵守することが求められるようになりました。また、もう1つ大事なことは、旅行者に対する教育や育成です。今では、SDGsという言葉が日常会話で使われるようになりましたが、そういった意識が高まっている中で、廃棄物を減らしたり、環境に優しい生活をしたいという方が増え、実際に実践している方も増えてきています。そういう方の中には、旅行においてもそういった観点を意識をしており、持続可能性を積極的に訴えている旅行先を選ぶ方も多くいらっしゃいます。

    この数年、やはりコロナは旅行形態の変化に多大なる影響を及ぼしています。JNTOフランクフルト事務所が2021年に調査したデータによると、コロナ以前から、ヨーロッパの方々は、休暇などの時間に、旅行に限らず自然の中で過ごしたい人が非常に多かったのですが、その傾向がさらに強くなっているそうです。そういう意味では、このトレンドとサステナブルツーリズムは、ある程度、連動すると考えられます。

    とはいえ、サステナブルツーリズムでは、旅行者に対する金銭的・構造的な負担が出てきてしまうため、実際に取り組むことは容易ではありません。普段の生活では環境に配慮した生活を実践している方でも、旅行先においては日常生活を忘れたいが故に、意識が低くなってしまう傾向が、日本人の中で顕著にあるため、サステナブルツーリズムが浸透するまでは、もう少し時間がかかると思います。

    外国から見た日本の印象と現状

    では、外国から見た日本のサステナビリティについての印象を見ていきましょう。JNTOパリ事務所が昨年行った調査によると、自然への敬意や豊かさに関しては非常に高い評価をしている一方で、包装などプラスチック消費が過剰であると感じている方が非常に多いということが分かりました。

    フランスに限らずヨーロッパ諸国においては、10年以上前からプラスチックパックの有料化が進んでおり、私が行ったことがある南アフリカでも、2004年頃には有料化が始まっていました。そういった背景もあり、海外からは、日本は一回り遅れているような印象を持たれていると考えます。

    本日3月16日にJTB総研がニュースレターで出した、日本・スウェーデン・ドイツで調査した、旅行中におけるSDGsに関わる行動の実践率を見てみると、日本では3割の方が「特に実践していない」と回答していることが分かりました。これは、日本では、旅行をする理由に非日常体験を求める方が多いことも原因として考えられます。世界的に見てもスウェーデンやドイツは特に環境問題に対する意識が高い国なので、差が顕著に出てしまう部分はありますが、それでも、この数字には愕然としてしまいます。

    2022年4月1日に新法施行!持続可能化に向けた国内での動き

    近年では、日本でも持続可能化に向けた動きが徐々に加速しています。大きな動きは、2022年4月1日施行の「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」、略して「プラスチック資源循環法」が挙げられます。この法律が施行されて以降、今まで無料だったプラスチック商品の提供有料化や、代替素材への切り替えなど、プラスチックを削減していく動きが出てきています。

    観光業界では、ホテルなど宿泊施設のアメニティも大きく変わっています。実際に、色々なホテルのホームページを見ると、2022年4月1日からアメニティを中心としたプラスチックの削減を宣言している施設が多くあります。これまでの日本のように、アメニティが豊富に揃っているようなホテルは、欧米にあまりなく、むしろ、日本のサービスは過剰であるとの印象を持っている人もいたので、訪日旅行客へのサービスという観点で見てもポジティブな変化であり、持続可能化に向けて一歩前進になるのではないかと期待しています。

    ヨーロッパにおける旅行者の意識の変化

    海外のBooking.comで2020年に行われた調査でも、旅行業界に対して、サステナブルな旅行オプションの提供を望む方は全体の7割にも昇り、旅行者の意識が変わってきているように思います。

    特にヨーロッパでは、世界的な認証機関からのお墨付きがある旅行がしたいという旅行者の意識が強いと感じますし、よりエミッションの少ない公共交通機関を選択する方や、サステナブルに関する取り組みがわかる宿泊施設のホームページを望む方が徐々に増えてきています。やはり、そういった声が大きい欧米は、当然ながら日本よりも進んでいます。

    Audley Travelというイギリスの会社を例に出すと、Responsible Travelに関する彼らの行動指針と、具体的な取り組みをホームページ上に掲載しています。これは、お客様が商品や会社を選ぶ時の判断基準になっているからであり、欧米ではこのような記載はスタンダードになってきています。

    AttractiveJAPANでのサステナブル体験の基準とは

    では最後に、地域ブランディング研究所におけるサステナブル体験の基準についてお話をします。まず、私たちは認証機関ではなく、あくまで旅行会社なので、施設や商品を数字などで測りはしませんが、海外の最新の観光情報に関しては把握しているので、そうした面で事業のスタートアップ段階から支援をさせていただき、グリーンディスティネーションやグリーンラベルといった評価を得るための準備も行っています。現在改訂中の弊社サイトAttractiveJAPANでは、次に掲げる3つの観点、自然環境・社会・経済における持続可能性の基準に基づいて商品を掲載します。

    1.自然環境の持続可能性

    ごみの削減やネットゼロエネルギーへの取り組み、そして、自然環境保護への参画に関して、アドバイスや支援を行っております。

    2.社会の持続可能性

    これからのポストコロナの旅行においては、地方に行きたいという方や、本物の日本を体験したいという方が増えてくるため、今まで来なかったような場所まで観光客が来ることになります。その時、重要な要素になってくるのが、地域の満足度です。よくディズニーランドでゲストとキャストという言い方をしますが、キャストのような存在にあたる地域住民の方々の貢献は大切なので、彼らの満足度を高め、地域に良い影響を持たせられるように、お手伝いをさせていただければと思います。

    3.経済の持続可能性

    旅行は経済活動でもあるので、短期的および長期的に、地域経済にポジティブな側面を持たせるお手伝いができればと考えております。

    今日3月16日、Japan Travel Awards2022の発表がありましたが、Japan Travel AwardsもSDGs(持続可能な開発目標)に則して、サステイナブルな取り組みをしている旅行商品や地域の方を、正当に評価するために今年から始まりました。ファイナリストに選ばれた、寄り道を楽しみながら、参加者だけで電動モビリティに乗って地域資源を巡るセルフガイドツアー「城崎ぷちたび」の株式会社たびぞう様のように、地域の活性化にも取り組む旅行会社や旅行商品のお手伝いをさせていただいております。

    最後に

    消費者のサステナビリティに対する意識が非常に強くなっていることから、サステナブルな要素を含む商品は、今後も需要が伸びていくと考えています。日本よりも先を行っている欧米では、サステナブルな取り組みであることを前提とした旅行商品を造成し、販売することが、スタンダードになっているので、この状況が以前の状況に戻ることは考えにくいでしょう。

    そして、地域への旅行が増える将来において、やはり地域の方々の協力は欠かせません。協力というより、むしろ彼らが主役になっていくのではないかと思います。そう考えると、これからの旅行者が求めることは、地域住民との交流や笑顔であり、サステナブルツーリズムは「贅沢」ではなく、「必須」なのではないでしょうか。

    最後に、経済活動はシェアホルダーのためではなく、ステークホルダーのため、つまり地域の住民を含めた全ての方々が笑顔になるような活動ができればと思います。屈託のない笑顔で外国人観光客を迎えられる観光を、日本各地でも進めることができればと思います。

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