第5回「Attractive JAPAN Award」（※1）の受賞事業者にお話を伺い、地域での取り組みや事業・サービスにどのような想いを持って活動されているかを紹介するインタビューシリーズ。今回はその第1弾です。

「アトラクティブジャパン大賞」を受賞した熊本武士道ツーリズム協議会の松永哲典さんにお話を伺いました。

熊本武士道ツーリズム協議会は、日本の武道や武士文化を体験する観光プログラムを提供している団体です。特に外国人観光客に向けて、居合道を通じて日本の伝統文化を深く理解してもらうことを目的としています。

（※1）第5回「Attractive JAPAN Award」についてはこちら　

【プロフィール】　松永哲典さん
1982年熊本市生まれ。高校卒業後、イタリアのレストランで4年間働き帰国。地元である熊本市にて家業のテナントビル経営に従事する一方、宮本武蔵の剣術「二天一流」を継承する宗家18代目として居合道を教えています。また、子どもや若者、行政なども巻き込んだまちづくりを推進する一般社団法人「マチノミライ」の代表理事として、地域の活性化に取り組んでいます。

イタリアで知った「誇り」の意味と日本文化への目覚め

高校卒業後、私は長年の憧れだったイタリアに渡り、22歳になるまでの4年間を過ごしました。学生時代はサッカーに夢中だったので、本場イタリアの空気を肌で感じてみたいと思ったんです。現地ではレストランのウェイターとして働いていました。イタリアの方々が、地元の文化や伝統について誇らしげに話す姿を見てすごく感動しました。家族や地域のつながりって本当に大事なものなんだなって感じたんです。それで「自分も日本のことをもっと深く知りたい」と強く想うようになりました。イタリアで過ごした日々に、自分のルーツを見つめ直すきっかけをもらえたのだと思います。

宮本武蔵から続く道、武道一家の伝統を継ぐ決意

私の家系は武道の伝統を受け継いでいて、居合道にも深く精通しています。曾祖父は宮本武蔵から伝わった二天一流の型を継ぐ15代目で伝授し、その伝統が祖父、父、私へと受け継がれているんです。幼い頃は家の中に父が稽古で使う刀や道着があっても、正直その重みを分かっていませんでした。むしろ、外でサッカーボールを追いかけて、友達と走り回るほうが楽しかったんですよね(笑)。だから、当時は居合道という静かな武道の世界には、ほとんど興味を持てませんでした。

しかし、イタリアでの生活を経て日本に帰国し、大人になるにつれて少しずつ気持ちが変わっていきました。心を落ち着かせ、内面と向き合うことの大切さを実感するようになったんです。それから居合道の意味を考えるようになり、自分もその一端を担いたいという想いが自然と湧いてきました。

30歳でおこなう大同窓会「三益式」を立ち上げ

29歳のときに同窓会を開いたんですが「来年は30歳という節目だし、もっとたくさん人を呼んで、成人式みたいに盛大なパーティーをやろう」という話が持ちあがったんです。そして翌年、仲間たちと一緒にゼロから「三益式（みますしき）」というイベントを立ち上げました。名前には「人生がますます良くなるように」という願いを込めました。最初は仲間内だけの予定でしたが、どうせならもっと大きいイベントにしようということで、30歳なら誰でも参加できる形にしました。おかげさまで毎年恒例の定期イベントとなり、協賛企業も増えて、たくさんの人が参加してくれるようになりました。

三益式がきっかけで結婚したり、ビジネスを展開させたりした人も出てきました。著名人を招いて講演会を開くこともあります。次の世代には「三益式」という名前と日にちだけを残して、あとは自由に想いを表現してもらえればいいなと思っています。熊本の活性化につながれば、これほど嬉しいことはありませんね。

居合道に込められた精神を伝える挑戦

居合道の精神や意義をどう見せ、どう伝えるかが一番の課題でした。居合道はただ技を見せるだけではなく、内面を鍛え、精神を磨くことが重要な要素です。なので、観光で訪れたお客さんにもただ体験してもらうだけではなく、私たちの想いがしっかりと伝わっているかどうか、常に確認しながら進めてきました。居合道の型や礼儀作法のひとつひとつには、意味や精神性が込められていて、それを理解してもらうことがとても大切なんです。

熊本のまちには、熊本城を中心とした城下町としての豊かな歴史や文化が息づいています。文化的背景も、居合道の理解を深めるためには欠かせない要素です。私は、居合道を通じて熊本の歴史や文化を体感してもらい、日本の武士道精神を次世代に伝えていくことが自分の使命だと感じています。

地ブラと意見交換を重ねて想いをかたちに

今回表彰された体験プランには、武士道ツーリズムをはじめ、侍文化の芸術体験や瞑想など、さまざまな要素が盛り込まれています。企画を立ち上げるにあたっては、地域ブランディング研究所（以下、地ブラ）との密接な連携が欠かせませんでした。私たちはそれまで、居合道の魅力を外に向けて発信することはほとんどしていなかったんです。でも、地ブラの皆さんと何度も話し合う中で、地域活性化の視点と私たちの「居合道をもっと広めたい」という想いが一致し、新しい挑戦が始まりました。

外国人向けのプランをつくる中で「刀で切るパフォーマンスやアクション性の高い演出の方が観光客にウケるのでは？」というアドバイスをいただくこともありました。でも、私たちは「それでは居合道の本質を伝えられない」と感じたんです。なので居合道の本質を伝えることを最優先に、何度も意見交換を重ねました。

地ブラの皆さんは、私たちの想いをしっかりと受け止めて、それをかたちにするためにさまざまな提案をしてくれました。通訳ガイドの方々にも、日本語のニュアンスや専門用語だけでなく、居合道の奥深い精神性や歴史的背景についても理解してもらう必要がありました。居合道は単に刀を振るものではなく、心を磨き、自己と向き合うための道であり「相手を倒すための手段」ではありません。何度も意見交換を重ねたことで、地ブラの皆さんと協力して、より良いプランをつくり上げることができたと実感しています。

世界に誇る文化的な地として熊本の魅力を発信

今回、私たちの活動が評価されて大変光栄に思っています。体験プランを通じて、宮本武蔵の歴史や精神性を伝えることができ、多くの方々に受け入れられたことがとても嬉しいです。周囲の方々からは「良いものが作れて評価されて良かったね」と温かいお言葉をいただいて、私たちの活動が少しずつ認められてきたことを実感しています。これからも、熊本の文化を守りながら、さらなる発展をめざしていきたいです。

今後の目標は、熊本が日本国内だけでなく、世界の文化的な中心地として広く知られることです。そのためには、私一人の力では足りません。地域の皆さんや外部の専門家など、たくさんの人たちと力を合わせて、熊本の魅力を世界に発信していきたいと思っています。

熊本は、熊本城を中心に歴史と文化が深く根付いた町で、細川家が築き上げた武家文化や居合道、さらに剣豪・宮本武蔵が創始した剣術流派「二天一流」が受け継がれています。「二天一流」は、大小二刀を使う独自の技術で、武蔵が晩年に熊本で完成させたもので、現在も山東派や野田派を通じて全国で稽古がおこなわれています。武蔵の剣術哲学や実践的な技術は現代まで脈々と伝わり、熊本の伝統文化の一部として注目されています。また、熊本の食文化も素晴らしく、特に馬刺しはぜひ味わってほしい名物です。こういった歴史、文化、そして食など熊本の魅力をより多くの人に知ってもらえるよう、地域全体で力を合わせていきたいと思っています。

取材を終えて

松永さんの情熱とビジョンに強く心を動かされました。イタリアでの経験を通じて自分のルーツを見つめ直し、熊本の武士道精神と地域文化を世界に発信しようとする姿勢は非常に感銘深いものでした。特に、居合道をただの観光アクティビティにとどめず、その内面的な精神性や歴史的背景までしっかりと伝えようとするこだわりが印象的です。また、地域の人々や外部の専門家と協力し、熊本の魅力を世界に発信しようとする松永さんの取り組みは、熊本の国際的な文化発信において大きな役割を果たすと確信しています。熊本武士道ツーリズム協議会の活動がさらに広がり、多くの人々に熊本の豊かな歴史と文化が伝わることを期待しています。

今回のインタビューで紹介したツアーは、以下よりご覧いただけます。
「日本最強の剣豪・宮本武蔵の悟りと美学にディープに迫る熊本2日間の旅」

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