【開催レポ】観光庁:誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成実証事業全国シンポジウム『第1セッション withコロナ時代における感染症対策』
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はじめに
徹底した感染症対策を行いながら、新しい生活様式に沿った魅力的な滞在コンテンツ造成を実施するために、観光庁が2020年度実施した「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成」実証事業。その成果報告会となる、全国シンポジウムの第一セッションのテーマは、「withコロナ時代における感染症対策」。当事業を共に進めていただいた専門家の高松さんに登壇いただき、感染症対策を行い事業に取り組んだ2つの事例を基に、ディスカッションを実施。全体のモデレーターは、地域ブランディング研究所の吉田博詞が務めました。
ゲストパネラーのプロフィールはこちら
観光レジリエンス研究所 高松正人氏
地域や観光事業者のマーケティング戦略を支援する観光レジリエンス研究所代表。観光庁及びGo Toトラベル事業局の感染症予防策アドバイザー。「新しい旅のエチケット」を考察。観光関連業界団体の感染症対策ガイドライン策定などにも携わる。
銀山温泉組合 小関健太郎氏
株式会社湯元館(滋賀県)入社。2008年にUターンし、家業の株式会社銀山荘に勤務。2017年に代表取締役社長に就任。銀山温泉組合総務マーケティング部長として、「大正ロマン」の景観づくりによる集客づくりに取り組む。
釜石ラグビーツーリズム推進協議会 玉井康裕様氏
シニア世界大会開催を目標に釜石をシニアラガーの聖地化に取り組む。
感染症対策のポイント
吉田:
感染症対策のノウハウをいかに実践してきたかを、二つの地域からお話をいただきたいと思います。それに先立ち、簡単に感染症対策のポイントを説明させていただきます。地域ブランディング研究所では昨年度、観光庁の事業で、観光庁やGo Toトラベル事業局の感染症予防策アドバイザーを務めていらっしゃる高松さんと共に感染リスクの洗い出しとマニュアルを作成し、以下のような対策の取りまとめを行いました。
①飛沫感染、エアロゾル感染、接触感染という3つのリスクを理解
②マスク、手洗いの方法の理解
③消毒や換気のしかたの理解
④スポーツ、楽器コンサート等コンテンツ別の対策
⑤体験コンテンツでの対策
⑥感染疑い・感染者発生時の対応
⑦感染症対策の研修・訓練
⑧チェックリストの作成
⑨事業中止の考え方
しっかりとシミュレーションし、刻一刻と変わる状況に対応していただいたことが、本事業の取り組みです。高松様、改めて感染症対策のポイントの振り返りをお願いします。
<①共通対策>
・基本的な対策への正しい理解
・飛沫感染・接触感染・エアロゾル感染等の各対応を徹底
・物品消毒には、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール消毒液の利用が有効
・状況に応じた適切な換気が必要
・スタッフの徹底した感染症予防
<②飲食コンテンツ・イベント>
・飛沫感染リスクを抑えるための対策
例)マスク着用時のみ会話、座席配置、パーテーション設置
<③スポーツコンテンツ・イベント>
・飛沫が届かない身体的の距離を確保
・大声を出さなくても成立する運営体制
<④舞台芸術コンテンツ・イベント>
・会場入り口での手指消毒
・会場の消毒
<⑤体験型コンテンツ・イベント>
・マスクの常時着用
・道具、共有物品の都度消毒
<⑥現場のオペレーション>
・感染疑いが生じた際の対応を、感染症対策マニュアルに記載
・感染症対策の研修・訓練の実施
・チェックリスト作成
・ツアー、イベント等の実施に関して、自治体や地方公共団体等と実施、継続、中止等についてよく相談
高松さん:
withコロナ時代に観光を進めていくなかでは、感染症予防対策というのは基本中の基本です。3つの感染リスクというのが、どんなところにどのようにあるのか、感染リスクの因数分解を理解することで、しっかりと対策ができた観光事業が進められると思います。
銀山温泉組合の事例紹介
小関さん:
銀山温泉は以下の内容を実施しました。
・夜のライトアップ強化による「夜の温泉街の魅力強化」
・上限100名、1500円の入場料、周遊距離200メートル延長による3密回避
・天童温泉 DMC さんとの連携企画により、他の観光地から夜の銀山温泉への誘客
夜のライトアップイベントは1500円の入場料をいただきました。元々無料で温泉街にお客様を入れていたのに、入場料をとっても大丈夫かと心配でしたが、結果83.5%満足していただきました。「こんな時期に開催してくれてありがとう」というお客様の言葉が、感染症対策が大変じゃないか?大丈夫か?という声もある中で開催して、最も救われた言葉でした。
感染症対策では組合員への体調管理説明会や感染症が出た場合の対策を徹底しました。また、新しい価値を作るうえで銀山温泉のイメージがお客様の中で崩れないように取り組みました。2021年の9月も同じくライトアップ計画を考えています。最終的には1000円程度にする予定です。
釜石ラグビーツーリズム推進協議会の事例紹介
玉井さん:
今回の事業では東日本大震災からの復興を目指して新たに整備された釜石鵜住居復興スタジアムをメイン会場に、「シニアラガーの聖地化」を目指し、スポーツ観光事業を実施しました。大阪・東京・秋田など9チーム160名、企業チーム、高校OBチーム、社会人のクラブチームのラガーマンたちに釜石に集まってもらい2日間にわたり大会を行いました。
運営側として参加チームや地域の皆さんだけでなくスタッフに対しての安心安全にもコミットしました。絶対コロナは出さない、という運営チームの最終的な目標を立て、大会前後1週間の健康チェックを全員に行いました。結果実施したアンケートでは95%以上の方が満足と回答し、大会も無事終えることができました。
<パネルディスカッション>
地域の理解を得るために行ったことは?
小関さん:
イベントにおける感染症対策、チェックリストなどの説明会はイベント前から週1回、もしくは一軒一軒回り、説明を行いました。「お客様にはこういった対策を取っていただくので、我々も自信をもってサービスを提供しましょう」と伝え、合意を得ました。
玉井さん:
まず最初に考えたのは参加者全員へのPCR 検査です。移動の際も、徹底した感染症対策を行い、陰性の方だけにきてもらうことで、地域の方の安心感へのコミットに取り組みました。
高松さん:
どんなに検査しても、感染した人が潜り込んでくる可能性はゼロではありません。そのような際も感染させない対策を準備し、そのことを地域の方々に丁寧に説明をすることで、地域の方の安心を確保することができると思います。
参加者の理解を得るために行ったことは?
小関さん:
イベント取組前に、組合が作成した規定の中に「熱があるなど感染疑いがある場合はご宿泊をお断りさせていただきます」と声明を出しました。また、期間中は、ライトアップをしている温泉街を歩く際にお客様にお渡ししている提灯の棒を少し長めにすることで、提灯がぶつからないように離れて歩いてもらうことになり、安心して散策してもらえるよう工夫、アナウンスも行いました。
玉井さん:
接触プレーによって熱が出た場合、コロナかどうかを早く見極めるために感染症を治療しているドクターに同行していただきました。抗原検査キットを持ち込み、早い段階で見極める工夫をしました。また、プレイ時のボール消毒や、1日で何度も検温と消毒を行いましたが、88%の選手から「これは仕方がないことなので受け入れる」と回答いただきました。
高松さん:
今までの宿泊施設の感染事例は半分ぐらいがスタッフであることからも、スタッフの健康に留意することは大変大事なことです。また、行っている感染症対策を「見える化」することも重要です。
玉井さんもおっしゃっていたように、PCR検査に比べて検査結果が出るまでの時間が短い抗原検査は、スポーツイベントにおいて活用できます。
ワクチン普及後の変化(ワクチンがもたらす効果)
高松さん:
ワクチンはよい方向に感染症の現状を変えていくだろうと予想されます。
現在ワクチンの接種率が高いイスラエルやイギリスは、感染以前の生活に近いレベルまで戻すことができています。しかし、国によってワクチン接種率が50%超えているにも関わらず、感染率があまり減っていない国もあるため、実態をみながら、次のステップに進むという慎重な動きが必要です。
抗原検査について
高松さん:
抗原検査には、入国者の検査に使用され、精度も高く、比較的短い時間で結果が出る高原定量検査と精度はやや落ちるものの5分程度で結果が出る抗原定性検査の2種類があります。これらの活用により、今後スポーツやイベントが大きく変化していくと思います。
今後の展望
玉井さん:
ワクチン接種が進み観光が戻ってきても、生活様式は以前とまったく同じに戻るわけではないと思います。しっかりとした感染症対策を実行し、対策を実施していることを伝えることで初めてその地の観光客が戻ってくると思います。今回培ったノウハウを利用して、三密の要素が高い屋形船の観光造成を東京都港区でチャレンジしたいと考えています。
小関さん:
今回の事例が我々観光地の自信となりました。今後も安全のベースを更新し続け、対応をより柔軟にしながら旅の価値を上げていきたいです。感染対策との両立が難しく諦めていたものに対しても、今後感染対策との両立する方法を考えて観光地としてより魅力あるものを作っていきたいと思っております。
最後に
高松さん:
どこにどんな感染リスクがあるのかの因数分解し、それを突き止めてポイントを抑えた対策ができれば、従来に近い観光活動ができると思います。そういった面では、希望を捨てずに適切な対策を行い、安全を確保できる旅行を目指していけたらと願っています。
(レポート:永田 飛鳥)