【開催レポ】観光庁:誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成実証事業全国シンポジウム『クロージングセッション withコロナ時代のあたらしいツーリズム展望』
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クロージングセッション概要
『withコロナ時代の「あたらしいツーリズム」展望』をテーマに、観光危機管理の専門家である高松さん、サステナブルツーリズムの分野でご活躍されている森さん、観光カリスマの山田さんをお迎えしてディスカッションを行いました。
観光の専門家としての観点からwithコロナ時代をいかに未来につなげていくかの議論が繰り広げられました。モデレーターは、地域ブランディング研究所の吉田博詞が務めました。
コロナ禍で今何ができるのか?
吉田:
早速ですが、withコロナで世の中がどう変わったのか、そこに対して我々観光業界は今何ができるのかについて、3人の専門家の皆様にコメントをいただきたいと思います。
高松さん:
新型コロナウイルスの感染拡大により、いろいろ変化はしましたが、これまでもこれからも様々な危機的リスクがあるということについてはあまり変わってないように思います。むしろその危機的リスクへの対応をしっかりと考えながら観光を進めていくことの必要性が明らかになったと感じています。
森さん:
コロナ禍は一年半前にまさかここまでのことになるとは誰も思っていなかった。でもそれが起き、今後何が起きてもおかしくないということを感じました。こういう時だからこそ、次なる社会を作るためにも常識を疑い、本質のところを見つめ直すタイミングになったのかなと考えています。
山田さん:
いろんな地域をお手伝いをしながら実感しているのは、コロナ禍でこれまでは先送りできた事がもうできなくなったということです。あらゆる課題、問題が、すぐに解決しなければならないものとして目の前に現れています。これらに対して私たちは優先順位を付け、何とかしなくてはならない状況にある。地域が新しいことにチャレンジしていく前に、過去の事業を総括した上で次の手を打っていただきたい。コロナ禍で、変われないところは多分一生変われないではないでしょうか。
常連客、贔屓客との関係構築がレガシーにつながる
吉田:
アフターコロナではどんなレガシー、財産を残していけばいいのでしょうか?
山田さん:
今回のような危機的状況時には新規顧客開拓が難しく、頼れるのは常連客、贔屓客の方々だけです。私が住むスイスでも自然災害があった際、真っ先に助けくれたのはこれまで信頼関係を築いてきたお客様でした。今後、事業を進めていく上でお客様とのお付き合いの仕方をもう一度見直していただく必要があると思います。
森さん:
どんな危機があっても乗り越えていけるという実績を積み重ねることだと思います。日本は元々、地域ごとの独自性があり、そこで育まれてきた自然や文化があり、多様性豊かな場所です。本日、これまでのセッションの発表からも、改めてこれだけすごい財産がある場所であることに、大きく気づかされました。
高松さん:
観光客が主体的に地域づくりにも関わっていく仕組みができている地域はコロナで影響を受けても立ち直れています。こういった観光客のエンゲージメントが高い地域はレジリエンスが強い地域だと思います。従来のお客様とホストという関係性ではなく、一緒に地域を作っていくという関係性がこれからの新たな観光のあり方のレガシーの1つになってくるのかなという気がしています。
観光客と一緒に作る地域とは?
吉田:
非常に面白いお題を頂きましたので、そこを深めていければと思います。観光客自体が地域づくりに関わっていくという発想に関して、コメントをいただけますか。
山田さん:
お客様と一緒に新しい価値を創造することが観光業でも地域単位で求められているようになります。第3セッションでご紹介した気仙沼のクルーシップのような観光客も住民も立場に関係なく一緒にまちづくりに取り組む事例が日本にも出てきています。
これまでもマーケティング調査などで、お客様の欲しいもの、お客様が求めるものを提供しようとしてきました。今後は双方のコミュニケーションを通して、この地だからこそできる価値あるものを住民や事業者が観光客と一緒に作り上げていくことが地域により必要になってくると思います。
森さん:
観光客を消費する存在ではなく、一緒に作っていくことがより未来的になっていくと、強く思いました。また、行く側と受け入れる側の関係性を逆転してもいいのかなとも考えています。受け入れる地域側もよその町に行っていいわけで、今後は受け入れる地域側も相互に行きあう時代になることで、皆さんが動き出す時代になるのではないかという予感を感じています。
これからの観光業の変化に対応するポイントは?
吉田:
時代の変化に関して感じておられるポイントはありますか?
高松さん:
観光業にとどまらない世界になってきてますよね。誰が主で誰が客というよりも、皆さんがプレイヤーとなって一緒になって作っていくことがこれからの観光になっていく可能性があると思います。ここ10年くらいマスの観光になってきていたものが、今回のコロナをきっかけに質の観光に変わっていくと思います。
今は入り口ですが、今後10年ほどで、観光はかなり変わっていくだろうなということも感じています。
山田さん:
その都度危機に対応していくだけでなく、より能動的に自分たちが変化していかなければならないと思います。だからこそ、各地域の総合計画や総合戦略、観光計画をしっかり立てる必要があります。自治体が観光産業のあり方を政策としてどう位置づけるかが重要です。これまではふわっとした観光政策が多く、KPI を持ってたとしても観光客見込み数しかないところも多いのが現状です。政策として経済効果を求めるのならば、域内経済循環を向上させることを目的とし、域内調達率を上げることを目標とするとか、明確なKPIをしっかり自分たちで決め、変えていく努力をしていくことが必要です。
カーナビに例えると、行きたいポイントだけではなく、現在地である自分たちが立ってる場所がわからないと最適ルートは出てきません。しっかりと今の自分たちの状況を把握し、目指す将来を見据え、自分たちが変化して行くんだというルートを設定して、取り組んでもらえれば良いと思います。
今後の観光政策のあり方は?
吉田:
今後、観光政策のあり方はどのように変わっていくと思いますか?
高松さん:
世界で観光が進んでいるところは数字の中にきちんと住民の数字が含まれています。まさにここから先、観光客を増やしていいのか、何を求めているのか、観光について満足しているのかを考えることが日本は弱いと思います。大半が何人来た、いくら落としたばかりを追いかけているのでなかなか次のステップに進んでいかないように感じます。
また、今後は医療と観光がどのように連携するかがすごく大事になってくると思います。感染対策という点でもですが、医療関係者と話をすると、彼らも観光で地域が成り立っていることを理解してくれてお互いに協力関係が生まれてくる。医療関係者が観光客を入れても安心できるような視点を入れていくと、安心度合いの高い地域になってくると思います。
山田さん:
今のお話にあったような医療であったりとか介護、教育だったりと、観光から見て一番縁が遠そうな産業や事業者との連携やあり方が重要です。特に子供たちや専業主婦などが中心になるような取り組みが、地域にまとまりを生むと思います。今後は、外から見るとすごくホッとするぐらい住民生活に安心感のある地域でなければ成熟した社会とは言えず、観光も成り立たないと思います。
次世代の観光地作りで必要なことは?
吉田:
次世代に向けてどういう地域づくり、観光コンテンツがあるべきだとお考えですか?
森さん:
これまでの常識を疑い、ステレオタイプだったところをもう一度振り返って見直すことが重要だと思います。変わることを良しとすることで次々にいいアイデアも出てくるでしょうし、外から良い人材も入って来て、変わっていくことで逆に普遍性が生まれてくるようにも思います。若い世代に是非活躍の場をと思います。
山田さん:
天童の事例で三方良しという言葉が出てきましたが、私はさらに「将来」という視点をくわえ、「四方良し」が大事だと考えています。ヨーロッパでは確実に将来に向かって歩んでる地域は未来に対して良しというポイントをプライオリティナンバーワンに置いてます。 そう言う意味でも、早く次世代につなぐことが大事だと思います。その地域が持つ思想や哲学、普遍的な考えを世代を超えて継承することがとても重要です。現役世代が責任を持ち、次世代の若手により多くの本質的な価値を渡していくことで地域を将来へ繋いでいくことが大切になります。
高松さん:
災害が起きてそれを復興する際に元に戻すのではなくて、より良い形に戻していこうという意味のBuild Back Betterという言葉があります。ここから先はBuild Back Betterの競争になると思います。それも単にスピードだとかボリュームだけではなく、クオリティの競争になると思います。
登壇者からのメッセージ
吉田:
セッションの最後に、今後の日本の観光コンテンツ、地域づくりに向けて皆様から展望やアドバイスを教えてください。
森さん:
今日も朝にいろんなアイデアが出てきましたが、観光は今までの観光にあらずということじゃないかと感じており、これまで全然つながってなかった分野とつながる状況になっていくと思っています。多様性の時代、たとえば今、別の仕事でご一緒している障害者の皆さんもすごい能力を持っていらっしゃる。まだまだ観光が結びついていない分野や資源がたくさんあることが逆に楽しみな部分だと思っています。もっと色々なクロスコミュニケーションができる可能性をすごく感じているので、そういった取り組みがサスティナビリティにつながっていくと思っています。
山田さん:
今回のシンポジウムでも、「持続可能」と「多様性」というキーワードが何度も出てきました。「持続可能な地域経営」の大切な前提として、地域も会社も自立を目指さないと意味がありません。交付金などに依存して持続可能もできるかもしれませんが、国がつぶれても我が町は残っていくというくらいの気概をもって地域経営に取り組んでいただきたいと思います。その時に大事なのは、観光産業を超えて仲間づくりしていくことです。自分たちだけで観光のための観光だけをやっているところは上手くいかないと思います。今後はより人と人との繋がりが大事になります。もし、身内や地域内に仲間がいなくても、外には必ず繋がることができる仲間がいます。
今回は登壇されていませんでしたが、広島県呉市の観光振興計画がすごく参考になります。気仙沼クルーシップや地域通貨では佐渡市など、色々な取り組みが出てきています。みなさんの地域と比較して、もう完全コピーでもなんでもいいので、自分たちがやりたいと思ったらドンドン取り入れて前に進んでもらいたいと思います。ありがとうございました。
高松さん:
コロナ禍の1番大きな変化は、ネットを含めて物理的に離れた人たちが繋がってきたこと。これからの観光地づくりに活用しなければもったいないです。今後、ネットを通して色々な形でつながることで、自分たちが気付いてない地域の良さ、楽しさ、魅力を発見してもらい、それをもとにアイデアを出してその地域の魅力に仕立てて、しかもその大ファンになって頂いて、もっとまさにエンゲージメントを感じていただいて、こういった形で観光を回していくあり方ができてくるといいなと思います。今後は先によりクオリティの高い、色々な人たちを巻き込んだ観光を作ったところが勝ち残っていくと思います。
ニューノーマルって言葉がありますが、実は2回目なんです。米国同時多発テロの後にも使われ、それまでテロっていうのは特別なことでしたが、ノーマルになってしまった。
多分この感染症に対してもこれからテクノロジーが入ってくると、感染対策対策だけの話しじゃなくて、今日議論してきたようなことで、よりクオリティの高い、しかもそのいろんな人たちを巻き込んだ観光を作ったところが勝ち残っていくんじゃないかと。ぜひ日本の観光地にはそんなような観光地になっていただきたいと思います。
最後に
吉田:
今大変な状況ではあるものの、地域全体の未来から考えていく、より良き変化のタイミング、チャンスでもあるというポイントに気づきました。このセッションを通して培われてきたナレッジに関しましては、官公庁さんのホームページでナレッジ集として共有させてもらう予定です。少しでも多くの地域の皆様に、このwithコロナという時代を乗り越えていくためのヒントになるような情報を届けていければと考えておりますので、是非皆様改めてそちらもご参照いただければ幸いに存じます。本日はありがとうございました。
(レポート:長谷川拓実)