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2021/06/22 観光トレンド

JIFオンラインセミナー・レポート『サステイナブルツーリズムとは何か。責任と自覚ある旅について考える』

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    JIF(日本インバウンド連合会)によるセミナー『サステイナブルツーリズムとは何か 責任と自覚ある旅について考える』がオンラインで開催されました。最近、よく耳にする“サステイナブルツーリズム”という言葉。環境問題が深刻化する中で観光業界は、新たな視野をもって取り組む必要があります。

    NPO法人日本エコツーリズムセンター共同代表理事の森高一氏に『近年言われる“サステイナブルツーリズム”とは何か? 地域も地球も持続可能にしていく試み』についてをテーマにお話いただきました。

    JIFセミナー。今回のテーマは『サステイナブルツーリズムとはなにか。責任と自覚ある旅について考える』

    サステイナブルツーリズムとは何か

    国連では2005年にサステイナブルツーリズムを定義づけ、「現在と将来の経済的、環境的な影響を熟慮し、訪問客並びに産業環境そして受け入れ側のコミュニティのニーズに対応する観光のこと」と打ち出しています。つまり、現在と将来の世代間の公平、経済的、社会的、環境的な影響を考慮しつつ、旧来の観光の要素としてあった訪問客と観光産業だけでなく、「環境」というエコツーリズムの観点を加えることで、サステイナブルツーリズムは受け入れ側の「コミュニティ」がさらに大きな要素となっています。あらゆる貧困や地球環境の悪化など、現在の問題を将来に引き延ばさないために、国連は2015年にSDGs(持続可能な開発目標)という国際目標を掲げました。観光業も環境問題を解決するための考え方として、サステイナブルツーリズムが提唱されました。

    森氏は2014年からサステイナブルツーリズム普及のための活動を始めました。しかし日本国内においては全く通用しませんでした。当時はSDGsが未採択で日本社会では受け入れの土壌が整っていませんでした。サステイナブルツーリズムの概念や言葉は難しいと指摘されることが多く、制約に縛られると受け取られるきらいがありました。「世界的な取り組みであり、地域でこれから地球環境のことを考えた取り組みがこういったこと大切になってくる」と話を持ち掛けても、「サステイナブルって何?」「それに取り組んで人が来るのか」という状態だったそうです。

    現在では地球環境の変化やそれに対する人々の意識の変化などにより、重要な取り組みとして海外ではスタンダードな動きとなっています。日本国内ではインバウンド事業の成長も相まって注目を集めています。

    NPO法人日本エコツーリズムセンター共同代表理事の森高一氏は、2014年よりサステイナブルツーリズム普及のため、講演などの活動を積極的にされている

    地域の持続を一番に考える

    現在様々な要因から地域の持続性が危ぶまれています。新型コロナウィルスやそれに伴う経済の停滞、混乱。異常気象や温暖化問題。日本においては地震や少子高齢化問題、人口減少などがあります。それら地域持続性のリスクをどう回避していくか、受け入れる地域が持続しない限り観光としても持続しないと考え、サステイナブルツーリズムでは、地域の持続性を第一の目的としています。そこで森氏は「地域が持っている多様性がリスクを減らす大きな強みになる。地域から様々な産業が結びつき、人の流動が起こり、きちんとマネージメントされていく。そこを目指すのがサステイナブルツーリズムだと解釈をしている」と続け、地域とサステイナブルツーリズムの関係性について述べました。

    世界の基準 国際認証とは

    国際基準である観光指標は、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC : Global Sustainable Tourism Council)が開発したものがベースなっています。GSTCは、持続可能な観光の推進と持続可能な観光の国際基準を作ることを目的に2007年に発足しました。世界観光機関(UNWTO)を含め約30の国際機関や団体で構成するGSTCは国際認証を連携する認定団体(グリーン・デスティネーションズ、アースチェック等)を通じて授与しており、以下の4つを基本の柱として認証を行っています。

    1.持続可能な経営管理
    2.地域コミュニティの社会的・経済的利益の最大化と悪影響の最小化
    3.文化遺産の魅力の最大化と悪影響の最小化
    4.環境メリットの最大化と悪影響の最小化

    GSTC発足以前から世界ではすでに、特定の地域で独自に開発されたものなど、多数の持続可能な観光指標やエコラベル等が存在していましたが、GSTCは、世界観光機関のもと開発された世界共通のスタンダードな基準であり、国際連合環境計画(UNEP)などの国連機関、民間企業、NGOなど世界150以上の団体と連携し、その適切性がモニタリングされています。

    国際認証団体の一つであるグリーン・デスティネーションズ(GD)では、GTSC基準をもとにした100の基準があり、それに取り組むことで観光GSTC認証を受けられます。国際認証団体の一つであるグリーン・デスティネーションズ(GD)では、GTSC基準をもとにした100の基準があり、それに取り組むことで観光GSTC認証を受けられます。ただし、現段階で100の基準全てをクリアし認証を受けているのは米国コロラド州ヴェイルなど世界で3都市のみと、非常にハードルが高い基準です。このため段階を踏んで認証を目指していけるよう、60個以上でブロンズ、70個以上でシルバーなどランクが設けられています。また、取組を始めやすいよう最初の入門編として設けられているのが、「TOP 100選」です。入賞した観光地はGDのホームページに掲載され、観光地としての国際的な認知度向上につながります。

    なお、日本では岩手県釜石市がはじめて2018年にTOP100選に、2019年にはブロンズ賞を獲得し、現在他の自治体も続いています。このようなプロセスを経て、地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)等が国際認証を重視する市場に開かれ、国際的なプロモーション力を高めることにもなります。ですが、何より持続可能な地域をつくるという点で、環境や観光にとどまらない自分たちのサステナビリティの現状を把握し、次の施策につなげることができます、と森氏は説明します。

    観光庁は、持続可能な観光の実現に向けて2018年6月に「持続可能な観光推進本部」を設置し、2019年6月に報告書『持続可能な観光先進国に向けて』をとりまとめました。そして、2020年6月各地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)が持続可能な観光地マネジメントを行うことができるよう、GSTCの国際基準に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations,JSTS-D)」を策定しました。各地域においてこのガイドラインが最大限活用されることにより、効果的で持続可能な観光地マネジメントへの取組がさらに加速することが期待されています。

    自分たちの地域を見つめなおす

    サステイナブルツーリズムを地域で取り組むにあたって、「地域がまとまっていること」「地域にあるものを活かすこと」「外につながること」「持続を誇り高く次に繋げること」の4つが大切です。また、地域基準で取り組むのは重要であり、それを世界のサステイナブルツーリズムの基準に照らしながら見ていくこと、世界と地域の両方の面から取り組むことが今の日本の実状です。モデレーターを務めた地域ブランディング研究所の吉田氏からは「セミナーを聞いている人たちの中には、取り組みを行って実際人が来てくれるのかのイメージが掴みづらい部分があるのでは。取り組むにあたって何から始めていけばいいかなどアドバイスはありますか」とあり、それを受けて森氏は「取り組んだからといってすぐにお客さんがくるということではないが、長い目で見て取り組む価値はある。世界基準のサステイナブルツーリズムへ日本も基準を底上げしていく必要がある。そのために世界の基準を学び、スタートとして国際認証など外部の基準を取り入れる事に挑戦してみることが、自分たちの地域の自己診断のような改めて地域を見つめなおすことにつながる」と返答しました。

    さらに森氏は続けて、「この制度を日本全国で取り組めばいいというものでもなく、認証を取るだけで地域が持続するようになるかというとそうではない。制度を活用するほうがいいけど制度に活用されてはいけない」と指摘し、「何より大事なのは地域が持続することと、地域に価値が生まれること。地域を持続させるために外とつながり、人を受け入れ、地域での循環を実現し、世代を超えて取り組むこと、ここを目指してサステイナブルツーリズムというのは取り組むべき」と述べました。

    地域をうごかすのは若手

    「地域を持続させていくためには地域住民のまとまりをいかにつくるかが大事であるが、どういったアプローチがあるか」というふるさと創生サミット「地賛智商活力会議」座長の庄司氏の質問に対し、森氏は「若手が主導していく必要がある」と返答しました。これからのことであり、若手世代では自分たちの生きていく地球の将来を見据え、サステイナビリティの発想はよりスタンダードなものになっています。20代30代の若手が主体的に動き、それを外から内から支援してゆく体制が必要になります。そのために外的な、客観的な判断基準である世界的な認証にチャレンジし、自らの地域の魅力を改めて考えていく事も有効なのではないでしょうか。

    最後に森氏は「日本の取り組みはまだまだこれから。色々なところに動きが出てきたばかり。皆さんもそれに乗り、活用していただければ、色々なところで価値が創造できる。その情報をこれからも共有していきたい」と締めくくりました。

    (レポート:難波飛粋)

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