すべては、地域の伝統文化を次世代につなげるための取り組み。地域アイデンティティ賞受賞・株式会社つくる

着地型体験観光企画を通じて持続可能な地域の発展に貢献した観光関連事業者・取組団体を表彰する『Attractive JAPAN大賞』。審査は、地域振興やエコツーリズムの専門家3名の評価をはじめ、ブッキングデータの伸び率、クチコミ評価、地域らしさ、関係者の熱意、持続性、話題性、地域貢献度等の総合評価により決定します。この度、Attractive JAPAN大賞受賞事業者の方々に、インタビューを実施し、地域で体験観光をおこなう方々の取り組みを深掘りしていきます。

今回は、燕三条地域の橋渡しを担い、地域の伝統文化を次世代につなげるための事業運営をされ、「地域アイデンティティ賞」を受賞された、株式会社つくるの山田さんにお話を伺いました。町工場の魅力を継承していくことを目指し、地域の特性を生かしたオープンファクトリーを実施するなど、ファクトリーツーリズムを多様なカタチで展開。「燕三条 工場の祭典」実行委員会としては、日本の観光の振興、発展への貢献も認められ、「観光庁長官表彰」も受けています。そんな株式会社つくるの裏側に迫りました。

異なる歴史背景の2つの地域からなる「燕三条」

燕三条をひとつの市だと思っている方も多くいると思いますが、実は燕市と三条市の2つのエリアからなる地域なのです。江戸時代、ものづくりの地域として栄えたのが燕市、そして、そこで作られたものを全国へ売り歩く商人の地域として栄えたのが三条市でした。江戸時代は藩も違っており、それぞれ歴史的背景、人々の気質、得意分野なども違うエリアでした。

現在では、金属洋食器や金属ハウスウェアの燕市、作業工具や鍛冶の三条市という印象があるように、それぞれの歴史や特色を持ち、互いに補完し合いながら発展してきました。

「燕三条 工場の祭典」が生まれた3つのきっかけ

2013年に燕市と三条市が合同でスタートさせた、「燕三条 工場の祭典」。お客様自身で工場を回り、生産の現場を見学していただくオープンファクトリーのイベントです。始めた背景には、3つのきっかけがありました。

越後三条鍛冶祭り

三条市では「越後三条鍛冶祭り」という祭典を2006年から開催していました。ここでは、年に一度、鍛冶屋によるB品の販売や簡単な実演などを行っていたのですが、だんだんとマンネリ化してしまい、お客様から、現場の様子を見たいという意見などをいただいたことが、1つのきっかけとなりました。

鍛冶の後継者育成塾

同じく三条市では、鍛冶の後継者育成塾も行っていました。当時、鍛冶職人の後継が減っていることを、地域として危惧しており、そこで始まったのがこの事業です。初年度は中川政七商店の中川会長が講師となり、ひとつのメーカーの経営課題を明らかにして改善し、そのノウハウを地域全体で共有していました。実際、包丁メーカーのタダフサさんは、800~900ほどあった刃物の種類を主力の7種類に集約して、経営の大幅な改善に成功しました。そうした中で、鍛冶の後継者育成塾も3年目を迎えた時、東京でバイヤーとして活躍する山田遊さんから、一社を取り上げる後継者育成塾でなく、違う形で何かをやってもいいのではと提言がありました。

同じ思いを持った2つの市の融合

そんな中、たまたま東京都墨田区や富山県高岡など他の地域でオープンファクトリーが行われていることを知り、自分達のエリアでもできるのではと考えました。時を同じくして、独自の動きをしていた燕市。当時の燕市は、MGNETの武田修美さんを筆頭に、バスツアー形式の工場見学を開催していましたが、キャパシティの面で限界を感じていました。このような事情が積み重なり、燕市と三条市合同でのオープンファクトリー「燕三条 工場の祭典」が始まりました。

伝統文化を次の世代にバトンするための「燕三条 工場の祭典」

地域の特性を生かしたオープンファクトリー

「燕三条 工場の祭典」のように、オープンファクトリーを実施している地域は全国に30箇所ほどありますが、燕三条はそうした地域の中でも特殊なポジションを担っていると思います。

理由の1つ目は、参加している工場の種類が幅広く、馴染みのある「食」に由来するものが多いこと。一般的に、ひとつの産地では1種か2種の産品に集約していることが多いのですが、燕三条の場合は幅広い種類の金属加工品を扱っているため、何軒か回っても飽きがこないのです。さらに、カトラリーから包丁、鍋、茶器・酒器、農耕具など「食」にまつわる製品が多いため、お客様の興味関心を引き出しやすいのです。

2つ目は、クリエイティブにあると思います。「燕三条 工場の祭典」開催の火付け役となったmethodの山田遊さんを中心に、イベントのデザインやグラフィックは地域外のプロに発注しています。このような形で、クリエイティブチーム・地元住民・行政の三位一体で長くやってこられている点は大きいと思います。

伝統文化のバトンタッチという目的に向け

手探り状態で進めた初年度でしたが54事業者に参加いただき、5日間で1万人来場。そして、7年目の一昨年には113事業者、5万6000人を超えるお客様にお越しいただきました。しかし、順調に参加事業者が増えているわけではなく、増えては減っての繰り返しを経て今の規模にまでなりました。

やはり、100%の賛同は得ることが難しいと思っています。合意形成が必要と言われたりもしますが、自分たちがこうやった方が楽しいということを進めていったら、新たに参加してくる人もいれば、取りこぼす人もいるのは仕方ないと考えています。

それでも、はじめの頃は、手順を踏んでいろんな会の人を呼んだりしましたが、人が多いと前に進みません。スピーディーに動くために、実働部隊の実行委員会はどんどんスリム化されました。

僕たちがこれらの活動をする一番の目的は、この土地に伝わる想いを次の世代にバトンタッチすること。「伝統とは灰を崇拝することではなく、炎を絶やさないことである」という、作曲家グスタフ・マーラーの言葉があります。観光はあくまで手段であって、伝統を次の世代につなげることが一番の目的。この言葉のように、伝統文化を敬うだけではなく、それを継承することが僕たちの役目だと思っています。「地域に必要なこと、楽しいことをやる」というスタンスを大切にしつつ、この目的に向けて奔走していきます。

さらなる成長に向けて

会社設立の経緯

そうした中で、2020年の5月に株式会社つくるを立ち上げ、旅行業の免許を取得しました。取締役5人の小さな会社です。お客様が飲食店や宿泊施設の情報を知りたい時、町工場にはそれらの情報を詳しくガイドできる人はいませんでした。そこで、お客様のガイディングや地域の基盤の整備など、DMCのような役割を担いたいと思い、会社設立に至りました。今後は、燕三条を国際産業観光都市にするのが目標です。実際に、ロンドンでのイベントがきっかけで、海外からインターンシップとして来日している女性アーティストもいます。

観光客の平準化が鍵

株式会社つくるでは、年間を通して多くのお客様に来場していただくことを目標にしています。工場の祭典は、夏祭りの花火のようなものです。1年のうちの4日間にお客様が集中していて、これをどうやって平準化させるかが課題でした。コロナ渦の今は我慢の時期ですが、晴れてコロナが明けた時には多くのお客様が来られると思います。その時に向けて、今は小規模ツアーなどを開催して準備していきたいです。

小さなことから始めてみる

何か行動を起こすときは、最初から大きく構えないで、小さなことから始めてみることが大切だと思っています。いきなり100社が集まるイベントを実施するのは難しいけれど、2社3社と小さい規模からイベントを実施してみたり、あとは、お金をかけずにSNSなどを活用して、普段は公開していないところの限定公開をしてみたりでも良いんです。なんでもいいので、とにかく地域に興味を持ってもらうことが大切なのです。僕自身、燕三条全体の営業マンのような感覚で、今後も面白そうだと思ったことに、どんどん挑戦していこうと思っています。

まとめ

今回は、ファクトリーツーリズムの展開に挑戦する裏側に迫るべく、編集部が株式会社つくるの山田さんにインタビューを行いました。

違う歴史を持つ2つのエリアの融合を果たした燕市と三条市。飽きのこない製品の幅の広さと「食」にまつわる身近な製品でお客様の興味関心を引き出し、燕三条ならではの特性を生かしたオープンファクトリーを実現していらっしゃいます。

日本全国の観光地で、オンシーズン/オフシーズンの観光客数の波の大きさが課題となっていますが、燕三条でも年間を通した来客の波を平準化させることが今後の要で、まずは地域に興味を持ってもらうべく、小さなことからはじめていくそうです。どんなに小さなことでも、新たな取り組みに積極的に挑戦されている姿勢は、他の多くの地域でも参考になるでしょう。

株式会社つくるでは、「町工場の魅力を引き立て、長年受け継いできた伝統文化を次世代に継承していく」という目的意識をとても大切にされており、地域に伝わる文化に対する想いの強さが、その魅力を引き出し、発信していく原動力になっているのだと感じました。今後のさらなるご活躍を期待しております。

第2回『Attractive JAPAN大賞』についての紹介ページはこちら

第2回『Attractive JAPAN大賞』各賞を受賞された方のインタビュー記事はこちら↓
大賞受賞・八ヶ岳アドベンチャーツアーズ様
SDGs賞受賞・津和野町様
地域イノベーション賞受賞・琴平バス株式会社様

 

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